東京高等裁判所 平成11年(う)1533号 判決
まず,原審第2回公判調書には,列席書記官としてA書記官の氏名が記載され,同調書の作成者として同書記官の記名押印がされている。ところが,同期日には,証人Dに対する尋問が行われているから,その証人尋問調書は元来同期日の公判調書と一体となるべき関係にあり,右証人尋問調書の冒頭にもその旨の文言が記載されているのに,同調書の「裁判所書記官印」欄には,A書記官の名義とは異なる「B」の印が押なつされ,同証人尋問調書の各契印としても「B」の印が押なつされていて(ただし,「C」名義の印による契印が押なつされている箇所もある。),公判調書の前記記載等との間に明らかな食い違いがある。以上に照らすと,右証人尋問調書は,本来これを作成すべき立場にあるA書記官が作成したものであると認めることはできないし,第2回公判調書と一体となる関係にあるとも認めることはできないというほかはないから,右尋問の手続ないし内容を証明する効力を有しない無効のものであると考えざるを得ない。そうすると,第2回公判調書は,刑訴規則44条1項19号所定の「証人…の尋問及び供述」の記載を全く欠くことになることにもならざるを得ないのであって,原審としては,このような証人尋問の結果を事実認定に供することはできないと解すべきであるのに,原判決は,Dの原審証言を証拠として挙示して,本件の事実認定に供していることが明らかであるから,原判決にはこの点において既に訴訟手続の法令違反があるといわざるを得ない。
加えて,原審第3回公判調書には,列席書記官として前記B書記官の氏名が記載され,作成者として同書記官の記名押印がされている(証拠等関係カード,証人尋問調書にも,「B」名義の印が押なつされている。ただし,「C」名義の訂正印が押なつされている箇所もある。)。しかしながら,当審で取り調べた千葉地方裁判所刑事首席書記官作成の報告書によると,同期日には,前記B書記官がC書記官に依頼されて一人で立ち会ったが,C書記官は,B書記官の手控え,録音テープに基づいて自ら同期日の公判調書を記載して,B書記官の印を自分で押なつしたというのである。そして,右報告書によると,C書記官としては,B書記官の印を押なつするに当たってはあらかじめ調書の記載内容について同書記官の確認を得るつもりではあったが,実際にその確認を得たかどうかについては,B書記官は右確認を求められたことはなく,印鑑をC書記官に貸した記憶もないという趣旨を述べており,C書記官もB書記官から印鑑を借りる際その承諾を得たかどうかは定かでないと述べるなどの状況にあるというのであって,結局,C書記官が実際にはB書記官の確認を得なかったことをうかがわせる事情があることを否定し難い。そうすると,第3回公判期日の公判調書は,その作成権限を有するB書記官がこれを作成したものとはいうことができないと認めざるを得ず,結局無効なものに帰するというほかはない。そうすると,同公判期日で行われた訴訟手続(同期日には,証人E,同Fに対する尋問等が行われたとされる。)が適法に実施されたことを明らかにすることはできないことに帰するから,原判決にはこの点でも訴訟手続の法令違反があるといわなければならない。
そうして,原判決が,前説示のように前記Dの原審公判証言を証拠に挙示して事実認定に供しているほか,第3回公判期日で取り調べた前記E,Fの原審公判証言をも証拠に挙示し,本件の事実認定に供していることなどの事情にも照らすと,原判決の前記各訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすことも明らかといわざるを得ず,原判決は結局破棄を免れない。